NIKKI

なんかお腹痛いなぁ…って思った時に書いてるブログ

仮想OL時子さんの嘆き 〜新人くんと無言のランチ編〜


給湯室から「ベゴッ!」って音を聞くたびに「またか」と思ってしまう。最近の男の子って見かけによらず料理が上手だったりするものだと思っていたんだけれど、どうやら彼は違うみたい。ペヤン君。私は心の中で彼をそう呼んでいる。その名の由来はもちろん彼が毎日お昼に食べてるペヤングから。

 

 

 

「そんなの毎日食べてたら体壊すわよ~」

弊社の女子社員の巣窟である事務・経理部門、通称"大奥"のボスの熊谷さんが今日もそんなこと言いながらペヤン君に面倒見の良さそうな女アピールをしていた。40手前の独身、彼氏なし、化粧キツめの熊谷さんは果たして彼に振り向いてもらえると本気で思っているのだろうか。それとも本当に面倒見がいいのか。どちらにせよペヤン君は意に介さず「これが好きなんですよ、食べます?なんなら熊谷さんの分も買ってきましょうか?」と強烈なカウンターをお見舞いした。

 

 

 

 

 

 

そんな彼を見続けてもう1ヶ月が過ぎた。私の中ではどんどん彼の存在が大きくなっていく。いや、詳しく言えばペヤン君ではなく"ペヤング"が気になり始めている。私は普段は自分で作ってきたお弁当を食べているのだけど、たまに朝起きるのがめんどくさかったりして果てしなく嫌になるときもある。そんな時にどうしても脳裏に浮かぶのはペヤング。お湯を注いで3分待つだけ。嗚呼、なんと楽なんだろうか。それに私は子供の頃からあまりカップ麺というものを食べたことがない。だから余計に気になってしまう。分かるのはお昼にペヤン君の席から漂う匂いだけ。そしてあれを食べると周りの人にとても迷惑がかかるということ。

 

 

 

 

 

 

 


"躊躇"

私の心はずっと踏みとどまっている。こんな些細なことで。くだらない。お昼にペヤングを食べるかどうかなんて。食べたければ食べればいいじゃない。けれどもーーー

"プライド"

20代OLとしての誇りや羞恥心が邪魔をする。もし突然私がペヤングを食べたりなんかしたら。きっと誰もが私とペヤン君の関係を噂する、そして何よりペヤン君が唖然とする。きっとそうなってしまうだろう。それに"大奥"でも大人しめのキャラとして生きてきたのに翌日から実は大胆な女としてキャラチェンされてしまうんだろう。

 

 

 

 

 

 

結局悩みに悩んで私が出した結論は"たまたま寝坊した日に隠れてペヤングを食べる"というもの。結局食べたとしてもバレなければいいのだ。こんな簡単なことも気付かなかった私は自分自身を恥じた。何が"プライド"だ。カッコつけていた自分が何より惨めだ。自問自答し、反省を繰り返していくうちに私は眠りについた。

 

 

 

 

 


次の日ーーー

寝坊した。

体が、血が、細胞が、ペヤングを欲している。もうペヤングのことしか考えられない。お昼が待ち遠しい。バッグの中に眠っているペヤングを誰にも見られないように気をつけながら仕事を進めていく。

そして、12時。

私は分厚いナイロン袋で覆われたものを持って給湯室へ急ぐ。蓋を開けポットからお湯を投入。そして遭遇。はい、どうもこんにちはペヤン君。

 

 

 

 


頭が真っ白になった。やはり私は愚かだった。"大奥"のメンバーのことばかり考えていて大事な人のことを忘れていた。そうだったよな、ペヤン君。君は絶対ここにくるもんな。冷静に考えればわかることだった。もういいよ、終わりだ、殺してくれ…。そんな目で彼を見つめたところで意味はなかった。

「えー!時子先輩もペヤング食べるんですかー!」

口にメガホン付いてるんじゃないかってくらいのでかい声が給湯室に、廊下に鳴り響く。まずい、このままでは"大奥"にバレてしまう。まるでライオンに狙われた草食動物のように辺りを見渡し、そしてペヤン君の手を取り会議室へと猛ダッシュで逃げ込んだ。

 

 


そうして数秒後、本当に終わった…と確信した。恐る恐る振り返るとそこには唖然としたペヤン君がいた。手にペヤングがかかっていた。けれども、

「一緒に、たべよ?」

精一杯の可愛さを振り絞って喋りかける。

「はい…。」

まるでサバンナで袋小路に追い詰められた草食動物のような返事。私もライオンだったのだ。

 

 

 

 

会議室で2人きり、ペヤングを食す。もう味なんて分からない。ただ言えるのは

「誰にもこのことは喋るんじゃねえぞ?」

「はい…。」

圧倒的な主従関係がここに結ばれたことだった。赤い糸なんかじゃない、ペヤングの麺で何重にも絡み合った歪な関係がここに生まれた。

 

 

 

 

(P.S.  午後からの会議でなんか部屋が臭いというクレームがありました)