NIKKI

なんかお腹痛いなぁ…って思った時に書いてるブログ

裏路地歩いて菊花賞

松本城の路地を深く入った所に、なわて通りという飲み屋街がある。飲み屋街といっても、赤提灯を提げた小さいお店が数軒並んでいるくらいで、松本駅前の飲み屋街と比べてればずっと寂しく、人はほとんど歩いていない。秋華賞も終わり、特にやることもなかった土曜日の夜、松本駅からふらふらと歩いていると、吸い込まれるようにその通りに入ってしまった。こういうディープなところ、好きなんだよね。

いい店がないか物色していると、二、三分もしないうちに行き止まりになった。通り抜けができないタイプの通りって通りじゃなくね?と思いつつ、しょうがないので一番奥のお店に入った。

外からは一見、純喫茶の店のようにも見えたのだが、中身はゴリゴリの飲み屋で、ホワイトボードに書かれたメニューを見てみると、もつ煮、餃子、ウインナー炒め、納豆オムレツと、二軒目にもってこいなものが書かれていた。腹が減っていたので、餃子ともつ煮、生ビールを注文する。店員は、そろそろ還暦を迎えそうな、細いおばちゃんが一人で切り盛りをしていた。店内ではローカルなFMラジオが流れ、雑多な厨房でおばちゃんがさっそく片栗粉を溶いている。壁には色褪せたポスターや、祭りで子供たちが着けているようなお面が所狭しと並んでいて、まるで実写版深夜食堂のような店だった。

お通しと生ビールを空にすると同時に、もつ煮と餃子がやってきた。もう一杯、生を注文する。餃子はいかにも手作り、といった見た目で、冷凍餃子の味とはまた違う、この雰囲気に相応しい味がした。もつ煮もチェーン店のような味が濃すぎるものではなく、ちょうどいいペースでビールが飲めるものだった。

調理や洗い物が落ち着いた頃、「あなたどこから来たの?」と聞かれた。「住んでいるのはこの近くですよ。」と答えると、「あら、そうなの。でっかいリュック背負ってたから旅行の人かと思った。」「最近の夜は冷えるから、ダウンジャケットとか入っているだけですよ。」「そうね、最近冷えてきたもんね。」と、尻すぼみな会話が続いた。初対面でそんな話すことないよな、スナックでもあるまいし。と思っていると、「どうしてこんな奥の変な店に入ってきちゃったの?」とまた質問された。変な店の自覚はあるんだな、と感心しつつも「適当に歩いていたら行き止まりになってて。それでなんとなく入ってみたんです。」と答えると、「あら、そうなのね。」とこれ以上会話が続かないような返事が返ってきた。これでは面白くないなぁ、と「それと、今日の競馬でちょっとだけ勝って…」と付け加えると、「競馬ッ!!」と目を見開いて食いついてきた。「明日、菊花賞じゃない。何買うの?」「うーん、アスクビクターモアかなぁ。」「私はガイアフォース。」今までの他人行儀が嘘のように、会話が進む。そこからは競馬談義に花を咲かせ、思い出のレースだとか、馬券の買い方の話なんかをした。僕が、菊花賞で好走した馬は次の有馬記念でも馬券に絡みやすいですよ。と言うと、おばちゃんは直ぐに僕の言葉を紙に書き、すでにメモだらけの冷蔵庫に貼り付けた。なんて素直な人なんだろう。他のたくさんのメモも、全部競馬のことな気がしてきた。

そんなやりとりをしているうちに、店には常連さんがやってきて、あそこのラーメン屋が美味いだとか不味いだとかの話になった。

少し薄暗いけども、中は暖かい。こういうアットホームな飲み屋、(その分排他的かもしれないが)家の近くに一軒あると、それだけで週末が楽しみになる。いい店に出会えてよかった、としみじみしながら、店を出た。別れ際に、菊花賞で儲けたお金でまた来ますよ!と言った時のおばちゃんの笑顔がとても良かった。

結局、菊花賞の馬券は、僕とおばちゃんの二人とも外れた。もし、僕とおばちゃんの予想を融合させていれば…。いづれにせよ、多大なるダメージを負った僕は、気軽に飲み歩けない体になってしまった。なんとか次の天皇賞(秋)で的中させ、またおばちゃんに会いに行かなくては。

 

(本命は来るけど、紐の馬はこない。得意技です。おばちゃんはその逆。)