NIKKI

なんかお腹痛いなぁ…って思った時に書いてるブログ

マルチ商法を断る最適解を探して

 

高速道路をドライブしていると、中学時代の友人から突然電話がかかってきた。それも女の子だったから、ひょっとして愛の告白?!なんて思ったりもしたが、もちろんそんなことはなかった。昔の知り合いからの突然の電話。十中八九マルチ商法だ。少しがっかりしながらも、「あー、久しぶりにマルチに誘われたな」ってなんだか懐かしくなって、あの暑い夏の日のことを思い出した。

 

 

今から遡ること約2年。2019年、東京。僕は退屈と戦っていた。大学院という名のモラトリアムは何も刺激的なことはなく、ただひたすらに競馬に打ち込むしかなかった。その競馬も夏だからG1は無く、面白みに欠けていた。そんな最中かかってきた、高校時代の友人からのマルチへの誘いの電話。そういった電話がかかってくるよ、なんて噂はよく聞いていたけれど、まさか本当にかかってくるとは。僕は胸を躍らせて、すごい興味ある!是非とも話を聞かせて!と返事をし、数日後に会うことを決めた。すると彼は気を良くしたのか、バカなのか、なぜか会う予定だった日の前日にわざわざ僕の最寄り駅までやってきて、一緒に夜ご飯を食べよう、と誘ってきた。僕はこれから彼に舞い降りる地獄を知っていたので、可哀想だなと思いつつも、承諾した。

改札前にやってきた彼は、昔とそう変わらない顔つきで、はたから見ただけではマルチをやるような怪しい雰囲気は感じなかった。懐かしい気持ちに浸る間もなく、僕は

「よう!久しぶり!腹減ってるやろ!ラーメン食え!」

と軽く挨拶をして、近所のデカ盛りで有名なラーメン屋に連れて行った。

「ここではみんな、大盛りを頼むのがふつうだよ」

という僕の言葉にさっそく騙された彼は、ラーメン大盛りに海苔、ほうれん草増しを注文し、おかわり自由のライスも、僕に目一杯にもられてしまった。前半はめっちゃ美味いやん!と言っていた彼だったが、海苔が尽きたあたりから失速。目線は斜め下を虚に指していた。

「やっぱ単品じゃなくて、ラーメンとご飯のマルチやとキツイね!」

という僕の毒々しい言葉も、もはや彼には消化できない状態だった。彼は何度も「もう無理」と言っていたが、「これ食い切らんと君のいうビジネスの説明は聞かないよ」という僕の脅しに奮闘。永い時間をかけてようやく完食した。マルチ商法は人の潜在能力を高めるのかもしれない。あ、そういえば実は彼は夜ご飯をたべてきていたし、僕も当然そんなことを聞いていたけど、腹減ったやろ!と言って勢いで丸め込んだ。

 

そして翌朝。実はマルチの説明を聞くのは僕だけではなく、彼の小学校の友人も来るということが発覚した。味方か敵かわからないが、うまくやり込めるしかない。

「昨日のラーメンがまだ残ってるわ〜」

と、彼が宣うので、僕は

「食べ物を食べ物で押し出すイメージ」

と言い、彼を吉野家へと連れ出した。

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牛卵とじ定食(大盛り) 967kcal

どうもイメージ通りにいかなかったみたいだが、眠気は覚めたらしい。それから阿佐ヶ谷駅へと移動し、彼の小学校時代の友達(以後、A君)と待ち合わせをした。なんだかファッションに興味がありそうで、なよなよした雰囲気のA君はマルチの匂いすら感じずに、彼との久しぶりの再会に心の底から楽しんでいるようだった。だけども、僕の何の意図にも気づかず、思い出話に花を咲かせながら駅からぶらぶらと歩いてきた二人を待ち構えたのは、すしざんまい。

「今日は奢ってくれるらしいぞ!なんか仕事の調子いいみたいやからな!」

と突然僕に言われた彼は従うしかなく、「まかせろ!」と張り切って店内へとエスコートしてくれた。

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寿司 約600kcal

彼がトイレに行っている間、僕はA君を味方につける。

「実はな、あいつ今からマルチ商法をおれらに誘ってくるのよ。やからそれを止めるためにも、めっちゃ食わそうと思うんやけど、協力してくれる?」

困惑とドン引きと爆笑。A君は快く仲間になってくれた。その後はドデカ味噌汁一気飲み×2など、大盤振る舞いをしてくれた彼は、いよいよマルチ商法の説明をするために、僕たちをファミレスへと呼び込んだ。当然素直に従うはずもなく、店の前で一悶着を起こす。

「なんか寿司食べたら眠くなってきたわ。ファミレスでビジネスの話するんやったら寝てしまいそうやし、ハンバーグ食ってくれんか?」

意味不明の論理を勢いで誤魔化す。いや、さすがにもうお腹いっぱいだよ、と彼は言うが、「食べないなら帰る」の僕たちの言葉の前ではもはや奴隷。0.3悶着程度で話し合いは終わり、彼のテーブルの前にはハンバーグが置かれていた。

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目玉焼きハンバーグ 514kcal

彼はこれをなんとか食べ切り、マルチの説明を始めようとするが、僕はそれを許さない。

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ペペロンチーノ 457kcal

さらには、やっぱ食後はデザートでしょ!の一声で

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プリンとアマレーナの盛合わせ×2 686kcal

ちなみに見たら分かるが、ペペロンチーノは食べ切れていない。全然食後ではない。彼はこんな絶望的な状況の中、なんとか完食。マルチへの執念が生んだ、見事なフードファイトだ。そして、これを讃えての

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プリンとティラミスの盛合わせ 445kcal

そして、ついにここでマルチ商法を説明する権利が彼に与えられた。ここまでガッツを見せられて話を聞かないのでは、さすがに僕も男が廃る。

さっそく彼は、夢がどーだとか、金は努力でいくらでも手に入るだとか言うが、僕とA君が見ているのはメニュー表。あんまりにも僕らが真面目に聞かないもんだから、彼が資料を視界に入れさせようと身を乗り出して立ち上がると、テーブルの角がみぞおちに激突。「ヴ」と彼は言い残し、一目散にトイレへと直行。15分後に何事もなかったかのように戻ってきた彼は、説明を再開。さすがに可哀想になってきたので一旦真面目に聞くことにした。

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だけど、権利収入だとかよくわからない言葉が出てきたので、

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オレンジのパンナコッタ200kcal(期間限定)

これを意外にもペロリと平らげていたので、パン繋がりで

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フランスパン 279kcal

もう僕たちを、というよりは彼を、止められない。マルチのためならどれだけでも食べる男に彼はなったのだ。これが、マルチなのか。マルチの説明はよく分からなかったが、マルチの凄さはよくわかった。本当に凄い。ということで、ダメ押しの

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半熟卵のハヤシ&ターメリックライス 676kcal

さすがに人が苦しみながら食べている姿を見るのは辛くなってきたので、「競馬見なきゃいけないから」と言って帰路に。やっぱりマルチはよくわからんなぁ、というもやもやした気持ちを抱えて電車に飛び乗った。

振り返ってみると、僅か3〜4時間の間に合計4824kcalと、成人男性の約2日分のカロリーを摂取かつ全額おごり(約二万円)という、敬意を示すべき結果を彼は残してくれた。だけど、そこまでしなきゃならないほど、マルチというのは追い込まれてしまうものなのかもしれない。そういう危険性を秘めているからこそ、安易に近づいてはいけないし、もし誘われたとしても自分の頭でしっかり考えて、断る勇気が必要なのだ。だけど、そういう勇気がもてない、怖い、と言う人は今回の僕の断り方を参考にしてほしい。ひたすら食べさせ続けることで喋らせない。説明のチャンスを与えない。説明がなければ、断る必要もないのだ。ただ、これも数多ある断り方の一つに過ぎないわけで。今度はどうやって断ろうか…。